約 1,076,740 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/354.html
空が青く、清く、何より広い。 無遠慮な壁に邪魔されることなく、どこまでも高く高く続いていく。 陽が暖かい。豊かな草原が風になびいて波を打っている。 潮代わりの草いきれが流れ、散っていく。 人間はこうした土地に、郷愁や温かみ、開放感に心地よさといった正の感覚を知るのだろう。 一般的なホモサピエンスとはかけ離れた存在である彼にも悪くない場所と思えた。 顎を引き、見渡し、頷く。やはり悪くない。 なぜここにいるのか、その原因は分からない。 ここが地球上のどこかも分からない。 何者かによるスタンド攻撃なのかも分からない。だが、それでも悪くはない。彼にとってはどうでもいい。 草の向こうに巨大な石造りの建物が見える。 テーマパークか。図書館、博物館、見たまま城。刑務所ということはなさそうだ。 退屈な環境ビデオのごとく、稀に見る良い環境だ。 周りを取り囲むは場所柄にそぐわない怪しげな集団だったが、それに怯え竦むことはなかった。 彼は無敵だった。文字通りの無敵だった。「敵」が「無」かった。 短くも長くもない生涯で恐怖を感じたことは一度としてない。 近しい者の死にも、それによって与えられるであろう己の死にも、 客観的な視点で俯瞰から眺め続けてきた。それは今現在も変わらない。 そこかしこから笑い声が漏れ聞こえた。聞き慣れた種類の笑い――これは嘲笑だ。 彼と同じく、集団に取り囲まれた一人の少女に対して斟酌無い嘲りが投げかけられている。 「使い魔」「失敗」「ゼロ」といった単語が四方から飛び交い、もしくは囁かれ、 愛らしい少女は白い頬を朱に染め、大きな瞳をさらに見開き、屈辱に肩を震わせていた。 意味の分からない単語も多かったが、そこにからかいの意思を感じ取ることはできた。 彼にとっては見慣れた光景だ。 何やら怒鳴り返しているところをみると、少女は侮辱に対し侮辱で返しているらしい。 やはり見慣れていた。 しかし集団ということを抜きにしても相手方の優位は小揺るぎもしないらしく、 少女の怒鳴り声は集団の上を空しく通り過ぎていくだけだ。 ここまでくると、もはや見飽きている感がある。 少女を含め、皆が皆似通った格好をしていた。 安物囚人服ではない。かなり上等な……学生服だろうか。 ただ一人の年長者である禿げかけた中年男性は、 ものものしい木の杖に前時代的な黒いローブを纏い、 まるでおとぎ話にでも登場する魔法使いのようだった。 眼と耳から手に入った情報を照合し、状況を読み取り、ここで彼は合点がいった。 なるほど、見飽きた光景だったわけだ。 ここはいわゆる新興宗教で、彼らはその少年信徒といったところか。 目の前の少女は、儀式か何かに失敗して笑われているらしい。 信仰をささやかな心の拠り所にするのは大いに結構。 だが、宗教そのものを心の全てにしてしまっては本末転倒だ。 かつて大切にしていたはずの人間関係は磨耗し、やがて消えてなくなる。 胴欲かつ青天井のお布施乞食に吸い上げられて金が無くなり、 信じる物以外の全てを捨てて時間も失い、教団の意向次第で唯一無二の生命さえ奪われる。 そこまでして尚、誰から感謝されるということもなく、教祖は笑い、妄執を捨てず、 誰のおかげでもない、自分が偉大だからこの世は動いているとうそぶき、ふんぞり返る。 何もいいことはない。幸せを掴むためにはもっと他にすべきことがある。 といった意のことをわめきたてたが、彼の声はあえなく無視された。 ためになる助言に聞く耳を持たないとは狂信者にありがちなことだが、 聞こえないふりにしては出来過ぎている。 目前まで全力移動してから緊急停止などといったことを試してみるが、それもまた無視された。 喋り過ぎだと叱責されたこともある声を張り上げ、周囲を旋回してみるが、 彼に注意を払うものは、少女を含めて一人としていない。 彼を見ることができる才能の持ち主はこの場にいないようだ。困ったことになった。 少女は人垣に怒鳴り返すのをやめ、今度は中年男性に食ってかかっていた。 桃色がかった柔らかな金髪が持つ印象に反し、何かと攻撃的に生きている。 そのなりふり構わぬ姿勢は周囲のさらなる失笑を買い、 それにより少女はますます必死になっていった。 中年男性はその他野次馬連中とは違い、それなりに同情的であるらしい。 チャンスは一度ではない。二度でも三度でもない。 五度でも六度でも成功するまでやればいい、と慰めともつかない慰めをかけ、 とりあえず授業を終了する旨を宣言した。 これは単なる儀式ではなく、授業の一環であったようだ。つまり宗教学校ということか。 彼にもいまいち得心がいかなかったが、それどころではないことが起きたため、 疑問は彼方へ吹き飛んだ。 中年男性――年齢や立ち振る舞いからいっておそらくは教師――の号令一下、 少年達――ということは生徒だろう――は宙に浮いた。そう、生身の人間が宙に浮いた。 大きな口をさらに大きく開け、半ば呆然と彼が見送る中、ある者は黙ったまま、 ある者は友人と談笑し、ある者は残った少女をからかいながら、石造りの建物に向かって飛んでいく。 ワイヤーもクレーンもタネもトリックもない。 自分達が仕出かした奇跡を特別視する様子もない。 ごく自然な、当たり前の、家常飯事、日常所作、息を吸って吐くのと同じように、空を飛んでいく。 あとには大口を開いて見送る彼と、笑いものになっていた少女が残された。 少女は遠ざかる背中の一群を睨み、ふと目を逸らし、だがもう一度睨みつけ、 今度は目を伏せ、ため息とともにもう一度目をやった。 今度は睨みつけてはいなかった。 空飛ぶ旧友達の最後の一人までが建物の中に納まるまで目を離さず、 自分以外の動くものが見えなくなってからようやく動き始めた。 右手を開き、閉じ、開き、閉じ、開き、じっと見る。 再び出かけたため息を噛み殺すとともに奥歯を噛み締め、 空を飛ばず、右足と左足を交互に動かし、確かな足取りで前へ進む。 「あ、チョット待ちナー」 我に返り、彼は制止しようとしたが無視された。やはり聞こえていない。 「待てっつてンのにヨーッ。ドーなっても知らねーゾ」 声は届かず、物理的に干渉する手段を持たない以上、黙って見送るしかなかった。 少女は一歩、二歩、三歩進んだところで「凶」を踏み、 そこから四歩、五歩、六歩、七歩いったところで石につまずき前へのめった。 両手と膝をつき、ギリギリで顔面による着地は防いだが、 どうやら膝をついたところに石が顔を出していたらしい。 「アーア……やっちまっタ」 不意の痛みに涙を浮かべ、その一滴を拭うために顔へ手を伸ばし、 頬に掌が触れたところでようやく気がついた。が、すでに時遅し。 「マ、コレでウンがついたってトコジャネーノ?」 愛らしい容姿に似つかわしくない、怒声とも悲鳴ともつかない叫び声をあげたが聞く者はいない。 少女が八つ当たりをしたくても相手はいない。 怒りと苛立ちを押し殺し、ハンカチでこすり、頬と掌に付着した獣糞を拭うのがせいぜいだ。 大変に気の毒だが、彼は同情できるだけの心的余裕を持たなかった。 少女の叫びや八つ当たりと同様に、彼の忠告を聞く者もいないのだから。 これは存在意義にもかかわる重要な問題だ。 去り行く少女を横目に、周囲を見渡す。辺りには何も無い。 草、草、草、草、そして石造りの建物があるだけだ。 少女――ゼロのルイズと呼ばれていた――に目を移し、そのまま止めた。 少し悩んだフリをして、ドラゴンズ・ドリームはルイズの後を追いかける。 龍の夢は未だ覚めず。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/436.html
変わったな、とギアッチョは思った。何が?他でもない自分自身がである。以前の自分ならルイズの甘言になど耳も貸さなかっただろう。躊躇無く中庭を凍結し、学院中を凍結しただろう。己のスタンドの最強を信じて疑わなかったし、実際無敵であった「例え時を止めるスタンドがいよーと、オレの敵じゃあねーッ」ギアッチョはそう確信していた。10人にも満たないチームで組織に反逆するなどという無謀に乗ったのも、自分の能力ならばボスですら倒せると思っていたからだ。しかし現実はどうだ?グイード・ミスタと新入り、ジョルノ・ジョバァーナ。ホワイト・アルバムが奴らの能力に劣るところは一つとしてなかったはずだ。しかしギアッチョは敗北した。何故か。 「答えは簡単だ・・・」 あなどっていたからだ。奴らを・・・そして世界そのものを。同じ「覚悟」をしているように見えても、結局ギアッチョは心のどこかで己の勝利を確信していたのだ。 「もう二度と・・・ブザマな思い上がりはしねェェーーッ」 皮肉にも―彼は死んでから成長した。 ギアッチョの話にルイズは聞き入っているようだった。自室に戻るなりルイズはギアッチョにあれやこれやと質問を投げかけたのだ。ギアッチョは「色々と聞きてーのはこっちのほうだっつーんだよォォーッ」と言いたかったが、こんなガキにいちいち目くじら立てることもないと思いなおし、とりあえずは質問に答えることにした。キレてさえいなければ常識的な判断も出来る男である。 「・・・それで、あなたは情報を奪おうとして・・・逆に殺されたのね」 自分が殺されたシーンをわざわざ反芻されるのは勿論気分のいいものではなかったが、 自分への戒めだと思い文句を言うのはやめた。それにいろんなことに意識が行っていて 気付かなかったが、よく考えればこいつは自分の命の恩人なのだ。少しぐらい不快に なったからといってすぐにキレるのは礼節に欠ける行為だとギアッチョは思った。無論 我慢の限界が来れば1・2発ブン殴るのに躊躇はないが。 「はぁ・・・まさか別の世界から・・・しかも殺し屋を召喚しちゃうなんてね・・・」 最初は別の世界の存在を疑っていたルイズだが、話を聞き終わる頃にはもう すっかり信じていた。何故って自動車だとかDISCだとか常人の頭で創作出来る話じゃ ないと思ったからだ。実際原理を聞いた今でもさっぱり理解が出来ない。 「気に食わない奴がいりゃあいつでも暗殺してやるぜ。「依頼」とあらばな・・・」 と、そこでハッとルイズは気付いた。 「ちょ、ちょっと待ちなさい いくら使い魔だからって人を殺せば罰されるのよ!」 「問題ねーだろォ~?この世界のことは全然しらねーが、例えば・・・『決闘』なんかで 死ぬならよォォ」 何故だか一瞬キザったらしいクラスメイトの顔が浮かんだが、ルイズはブンブンと 顔を振ってそれを打ち消した。 「そ、そうじゃなくて・・・ ああもう、言い方が悪かったわ 人なんか殺す必要はないし 殺しちゃダメだって言ってるのよ!」 「それは命令か?主としてのよォ」 「りっ・・・理解出来ないのなら命令するわ 殺人は許可しない!」 「なるほどな ここはオレのいたような世界とは違うってことか」 「・・・解ればいいのよ」 「だが断る」 「何ッ!?」 「極力ご期待に沿えるよう努力はするがよォォ~ 絶対殺さないなんて約束は出来ねーぜ 特に相手が下衆野郎の場合はな・・・」 殺し屋に下衆野郎と言われる人間ってどんなのよ、とルイズはツッこみたかったが、 こいつはどんなタイミングでブチ切れるか解らないので「お願いだから殺さないでよ・・・」 と音量3割減で言うにとどまった。 その後あらかたギアッチョにこの世界の事を伝え終わったので、ルイズはさっさと 寝ることにした。―なんだか今日はどっと疲れたわ・・・― しかしルイズがベッドに潜り込んだ時、「待ちな」というギアッチョの声が響いた。 「なっ、何よ」 もはや話しかけられただけで怯えるルイズである。 「肝心なことを訊くのを忘れてたぜ」 ギアッチョはそこで一呼吸置いてから、最後の質問をした。 「オレの世界によォォ・・・戻れる方法は―あるのか?」 暗がりでギアッチョの顔は分からなかったが、今までとはうってかわって沈んだ声 だったので―ルイズは事実を伝えるのをためらった。考えてみれば、人を殺すなどと いう己の人生が賭かった仕事をバカみたいに安い報酬でやらされていたのだ。 殺人などしたくなかった者も中にはいただろう―果たしてギアッチョがどうだったのか ・・・それは分からなかったが―なのに反逆という命がけの訴えに対してボスから もたらされたものは「死」だった。仲間が次々と死んでゆき、ギアッチョまで死んで しまった今、生き残っているのはリーダーのみ・・・或いは彼ももう死んでいるかも 知れない。ギアッチョからすれば自分が死んでしまったからといって諦めのつく 事であるはずがないだろう。今すぐにでもリーダーの元へ駆けつけたいはずだ。 「・・・・・・私は知らないわ だけどこの学院の図書室なら使い魔を送り返す方法が あるかも ・・・今度探してみるわ」 「・・・・・・そうか よろしく頼むぜ」 勘違いのようなものだとは言え自分を殺そうとした男だというのに、その言葉に ルイズの胸は奇妙に締め付けられた。 「・・・あなたのリーダー ボスを倒せてるといいわね・・・」 「・・・ああ」 そう呟くと、ルイズは罪悪感を振り払うかのように眼を閉じた。 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1498.html
「おあ?」 廊下を人が歩く音でセッコは覚醒した。もう朝らしい。 記憶が無いなりに自分の状況を再確認する。 どうもこの今一つ理解できない状況は、夢ではねえようだ。 なんせ目の前のベッドに自分を使い魔?にした女が眠っていやがる。 確か起こせと言っていた気がする。 「起きろぉー、ルイズ起きろ」 ぴくりとも動かねえ、だが息はしてるようだ。 「起きろつってんだろがよおおおお!」 ベッドを思い切り揺らして叩き起こしてやるか。方法は言われなかったし。 「な、なによ!何事?」 「朝だ起きろぉー」 「あー……はいはいおはよう。……あなた誰だっけ?」 記憶喪失って伝染性の病気だったかぁ?んなわけねえよなー? 「セッコ」 「ああ、使い魔ね、昨日呼んだ!」 「頭の病気か。」 「ちょっと寝ぼけてただけよ!あ、ついでに服を着せなさい。」 言うが早いか服一揃いを投げつけられた畜生。 それにしてもどうも逆らう気がしねーのは何故だ? やっぱりこの印になんかあるのか? 「できね。」 「ちゃんとやってくれたら飴ちゃん一個あげるわよ。」 「着せ方が判らねえ。」 「……」 仕方なく自分で服を着るルイズ。 貴族ってのは人前で着替えるのが普通なのかぁ? 全く理解できねー。 「ちょっと早いけど朝ご飯食べに行くわよ。」 そういえば、昨日トリステイン魔法学院?に来てから何も食べてねえ。 「うん、うん。」 ルイズに付いて部屋を出ると、胸のでかい赤髪の女が目の前にいた。 なんだか挑発的な表情をしてやがる。敵? 赤髪はルイズを見るとにやりと笑った。 「おはよう、ルイズ。」 「おはよう、キュルケ。」 ルイズが心底嫌そうにだが挨拶を返している。敵ってほどではねえみたいだ。 「あなたの使い魔って、それ?」 「サモン・サーヴァントで平民を呼ぶなんて、さすが[ゼロのルイズ]ね」 ルイズの表情が険しくなっている。 「うるさいわね!」 そもそもオレを使い魔と呼ぶこと自体どうも腹が立つ。 別の二つ名があった気がするが、思い出せねえ。気にしても仕方ないか。 「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねえ~。フレイム!」 キュルケが勝ち誇って叫ぶと後ろから赤い獣が現れた。 でかいが目が妙に可愛い。 ルイズが今にも暴れ出しそうだ。オレは飯が欲しい。 「ルイズ、飯……」 「わかったわよ!こんなのほっといて先に行きましょ!」 やった、飯が食える。 「ちょっと、この微熱のキュルケ様を無視とは何事よ。」 「朝ご飯が早く食べてえ、後で聞く。」 正直関わりたくねえ。大体使い魔なんて、正体不明のほうが有利なんじゃねえの。 まあ飯だ飯。食堂はもうすぐらしい。 「うおあ、無駄に豪華だなあ」 「無駄は余計よ。貴族が使うんだからこれで普通なの。」 「オレは何を食えばいいんだ」 「それよ。」 指差した先の床にパンとスープの皿が置いてあった。 腹が減っていたので平らげる。甘いもの以外の味はよくわからねえ。 「量が足らね。」 ルイズは困っていた。平民の、しかも使い魔に貴族の食事を与える訳にはいかない。 それに「教育」にも悪そうだ。だが、確かに足りない気もする。 どうせ残す物ならいいかしら? 「少しだけよ。」 鳥の皮とハシバミ草のサラダを渡してやる。 セッコはそれをあっという間に食べてしまった。 この食欲ぐらい役に立ってくれるといいんだけど。 授業があるとかいうので付いていく。こいつ学生だったのか。 偉そうだから先生かと思っちまったぜ。 魔法学院っつーからには魔法を教えたりするのか? とはいえ、ルイズが魔法を使っているとこを見たことが無いのでなんとも言えない。手品かもしれねえし。 「ここよ。」 「オレも授業受けなきゃいけねえの?」 「一応ね、適当に流してていいからその辺の床に座ってなさい」 石の床はなんとなく落ち着く。 それにしても、どうやら魔法学院というのはウソじゃねえらしい。 変な生き物がいっぱいいる。これ全部使い魔か。 「私は赤土のシュヴルーズ……土は・・基礎の…… トライアングル……錬金……だから……その…… スクウェアが……」 授業は全く理解できねえ。諦めて目の前の変な生物をからかって遊ぶ。 目玉お化けも6本足のトカゲも、形以外は普通の動物としか思えねえ。 なんで使い魔が人間だと困るんだぁ? オレならこんな珍獣の部下はこっちから願い下げだ。 と、突然爆発が起こった。こいつが魔法かぁ? 「うわあああ!」 「ゼロのルイズがまたやりやがった!」 どうも失敗らしい。失敗にしてはえらい威力だ。 また爆発があったら嫌なので外に出よ。それがいい。 「セッコ!セェッコ!!」 おかしいわね、あいつどこ行ったのかしら。 「セッコ!」 「なんだ。」 やっと現れた。主人が呼んだらもうちょっと早く来なさいよ。 「掃除を手伝いなさい。」 「わかった。」 やれやれ、なんとか昼までに終わりそう。 けど自分で指名しておいて、失敗したから一人で掃除しろなんて、あのババア今に見てなさいよ。 何とか終わらせて食堂についてみると、テーブルにはデザートのケーキ(の残り物)しかなかった。 甘いものは好きな方だと思う、でも昼食がケーキのみというのは耐え難い。 半分セッコに投げてよこすと大喜びしていた。 ハシバミ草を平気で食うくせに、甘いもの大好きなんて不思議な奴。 セッコがまた何か騒いでいる。優雅な昼休みがぶち壊しだ。黙らせないと。 「オレは悪くねぇ!謝るのはオメーだ!」 「貴様のせいでモンモランシーが!」 「脳みそにカビ生えてるのか?足元に転がってきた物を拾って何が悪りい!」 「貴族に対する礼を知らないのか平民が!」 「オメーのどの部分に貴族の要素があるんだ小便のシミ野郎!!!」 「このギーシュ・ド・グラモンを侮辱したな!決闘だ!」 「望むところだ、ボロ雑巾にしてやるよおおオオオオ!」 「ギーシュもセッコも何やってんのよ!」 「これはこれは[ゼロのルイズ]、君の召喚した無礼な平民にちょっと教育をね。」 「何がゼロですって?!既にあんたの方が無礼よ!大体決闘は禁止されてるでしょう。 何だか知らないけどセッコも謝りなさい!」 「禁止されているのは貴族と貴族の決闘だろう?こいつは平民だ。」 「そうだそうだ!」 「オレが謝る理由がひとつもねーよ!」 既に観衆までヒートアップしていてとても止められそうにない。 「セッコ。」 「何だ。」 「もう勝手にしなさい。でも殺したらダメよ!殺されそうになっても逃げなさいよ!」 「わかった。」 これは多分勝とうと負けようと「わたしが」謹慎だ。勘弁してほしい。 一応主として見届けるべく広場へついていくものの足取りは重い。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/336.html
トリステイン魔法学院。 メイジ達に、魔法や教養を教え貴族として育成するこの学院は、非常に騒がしい状態にあった。 というのも、新二年生達による使い魔召還の儀式が行われているためだ。 所属する学生達は、この使い魔召還の儀式で呼び出されたものによって、属性の固定とそれに伴う専門科目の専攻が行われるため、その結果に一喜一憂する。 この学院に所属する、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、これこそ名誉挽回のチャンスと、非常にはやり立っていた。 ゼロのルイズ。それが彼女に与えられた二つ名である。これは彼女の魔法成功率が0であるということを表す、極めて不名誉な二つ名であった。 もし、これで凄い使い魔を呼び出せば、今まで自分をゼロと呼んだ奴らを見返せるッ! そう思い、彼女は今、この使い魔召還の儀式に向かっていた。 しかし他の生徒の召還が進むにつれ、ルイズのはやり立っていた表情は、いささか自信なさげなものとなっていく。 「まだ、召還してない者は…… ミス・ヴァリエール!! 」 「はい」 黒いローブをまとった男、コルベールに名を呼ばれ、ルイズは大きく前に出た。 それに合わせるように、既に召還を終わらせた生徒の一団が、大きく後ろに下がった。 「ゼロのルイズ! また校舎に傷をつける気かァー」 「ちゃんとサモン・サーヴァント出来るのか? 」 「ルイズが成功するなんて有りませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから」 生徒達からヤジが飛ぶ。こういうのは無視をするのが一番よい。だが! 人一倍プライドの高いルイズは、そのヤジに対して振り向き、逆にッ! 思いっきり反応したッ! 「みてなさいッ! ……あんた達なんかより、ずっと強力な使い魔を召還してみせるわッ!」 「ミス・ヴァリエール。早くなさい。次の授業が始まってしまうじゃないか」 コルベールに言われ、向き直ってサモン・サーヴァントの儀式を始めるルイズ。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!」 杖を構え、極めて独創的な召還の言葉を紡いでいく。それに合わせ、杖の先へがきらりと光る。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私が心より求め、訴えるは、我が導きに答えなさい!」 ルイズの詠唱の終わりに、杖の光は爆発となって答えた。 「ゴホッ、やっぱこうなったか! 」 「オゴェッ! 」 「タコスッ!」 爆発で巻き上げられた砂塵と石っころが生徒一団に降りかかる。普段の3割増しなその爆発で、比較的ルイズに近い位置にいた生徒数名が地面と盛大なキスをかましていた。 ルイズから離れた位置にいた、比較的被害の少なかった生徒達は、口々にルイズに対して文句をたれる。 しかしルイズに、その言葉は聞こえていなかった。今、彼女の目の前にある、自らが召還したであろう使い魔の姿に、思わず言葉を失っていたからである。 「こんなのが、神聖で…… 美しく…… 強大な……」 黒と白のこの世界にはない服、パーカーと呼ばれるものを着た、黒髪の少年。 マントは羽織っていないし、杖も持っていない、おそらく平民だろう。この場にいた誰もが、そう認識した。 「プックックックッ…… まさか平民を召還するなんて……」 「さすがゼロのルイズ! 期待を裏切らな……フゲッ!」 それを見るなり、遠巻きに見ていた生徒達から再び、からかいの言葉が発せられる。 しかし、その言葉を最後まで言えたのは、極、少数であった。 二度目の轟音。今度は先ほどとはやや離れた、先ほどの召還で、ジャイアントモールを呼び出した少年のほぼ真横の位置で爆発が起きた。 先ほどと違い、完全に予想できないタイミングと、距離での爆発。今度は半数以上の生徒が、柔らかい芝のベットでお寝んねすることとなった。 爆発を至近距離で浴びた少年はというと、先ほど自分の呼び出したジャイアントモールが掘った穴に顔を埋めている。時折「違う、僕はこんなキャラじゃ……」などといううめき声を発しながら。 ルイズはその生徒達の惨状をシカトしつつ、その、二度目の爆発が起こった場所に淡い期待を寄せた。ひょっとすれば今度こそ、神聖で、美しく、強大な使い魔を召還できたかも知れないからだ。 しかし、結果として言えば、ルイズの淡い期待は見事にうち砕かれた。出てきたのは、先ほどの少年より5サント(cm)ほど高い、緑色の服に身を包んだ少年だったからだ。 「う~む、どうしたものでしょうか……」 平民が二人。サモン・サーヴァントで人間を呼びだしたという事すら異例なのに、二人というさらに異例の事態に、コルベールはどうしたものかと考え込む。 ルイズはというと、とりあえずどうしたものかと思っていたが、召還をやり直すにしてもせめて名前ぐらいは聞いておこうと、目の前の少年……才人に近づいた。 「あんた……誰? 」 「誰って…… 俺は平賀才人」 「何処の平民?」 ルイズはじろじろと、才人をなめ回すようにして観察する。もしや凄い特技でもあるのかと思ったが、本当にごく普通の平民のようだ。しかも、先ほどの質問をちゃんと理解していないらしい。これは期待できないと判断したルイズはハァ。とため息をついた。 さて、もう一人の方はどうかと思い、ルイズはそちらに対して目を向けた。 あちらの少年……花京院も、辺りをきょろきょろ見回している様を見て、こちらもダメか、とルイズはさらに肩を落とす。 もし、彼女がそれなりに実戦経験があるので有れば、才人のそれと違い、彼のは警戒故と解ったであろうが、あいにくとルイズはそういう事には殆ど縁がない人間であった。 爆発を聞きつけてやってきた衛兵達を後目に、ルイズは花京院の方へと近づいていく。 「えっ!?」 先ほどの少年、才人がびょーんと風を切って、50メイル(m)は先にいた花京院の方へ飛んでいくのを見て、ルイズは我が目を疑った。 もしこの場でスタンドが見えるものがいたとすれば、花京院が才人を引っ張ったのが見えたであろうが、あいにく、スタンドが見える人間は、この世界には存在しなかった。 「『エメラルド・スプラッシュ』ッ!」 そのかけ声とともに、花京院の前方、20メイルほどの土が、ジャガイモの皮をめくる様にはじけ飛んだ。 (何よ、あれ…) トライアングルメイジの、エアハンマーにも匹敵するかのようなその威力に、様子を見に来た衛兵達や、その場にいた生徒達の動き、その全てが制止した。 花京院はその様子を見て、立ち上がり、りんとした声を響かせ、いい放った。 「警告しておくッ! それ以上こちらに近づかないでもらおうッ!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/626.html
翌日。いつものようにフレイムをギアッチョの監視に行かせたキュルケは、彼らが馬に乗ってどこかへ出掛けた事を知った。ここ数日でギアッチョを危険だと感じた事はなかったし、もうぶっちゃけ監視とかしなくてよくね?時間の無駄じゃね?と思いつつあったキュルケだが、学院外に出るという今までに無いパターンだったので念の為もう一日だけ監視を続行することにする。 キュルケが急いで支度を済ませて廊下に出ると、ルイズの部屋の前で棒立ちしていた男と眼が合った。松葉杖をつき、服の下からは包帯が見えている。ギーシュ・ド・グラモンその人であった。 「・・・あなた何してるの?」 キュルケはいぶかしげに尋ねる。 「・・・や、やあキュルケ ちょっとルイズに用があるんだが・・・まだ寝てるのかここを開けてくれなくてね・・・」 ギーシュはばつの悪そうな顔をしながら答えた。 「用?あなたがルイズに?またあの子に何かしようとしてるんじゃないでしょうねぇ」 「そ、それは違う!僕はただルイズに謝ろうと・・・」 聞けばギーシュは二股をかけており、そいつがバレた上にビンタでフられてムカムカしていたところにルイズとぶつかってモンモランシーの為の香水がブチ割れて、彼は怒りで周りが見えなくなってしまったのだという。 「・・・呆れた 完全に逆恨みじゃない あなた貴族としてのプライドってものがないの?」 二股のくだりだけはキュルケに文句を言われる筋合いはないはずだが、概ね正論だったのでギーシュは黙って耐えた。 「それで、謝りたくてやって来たんだが・・・」 「ルイズならもういないわよ」 「な、なんだってーーー!?」 物凄い顔で驚くギーシュにキュルケは溜息を一つついてから、 「ルイズと一緒にギアッチョもいるんだからどっちか一人は気付くでしょ 常識的に考えて・・・」 とのたまった。その「ギアッチョ」という言葉に、ギーシュの体がビクリと反応する。 「・・・そ、そそそういや彼もいるんだったねぇ・・・ハハハ・・・ハ・・・」 ギーシュにとってギアッチョは相当トラウマになっているようだった。ヒザが滑稽なぐらいガクガク笑っている。 あんな目に遭っておいてトラウマになるなというほうが無理な話ではあるが。 「私はこれからタバサに頼んでシルフィードでルイズ達を追いかけるつもりだけど・・・あなたはどうする?」 キュルケの助け舟に、「是非とも一緒に・・・」と叫びかけたギーシュだったが、 「・・・ちょ、ちょっと待ってくれたまえ ルイズ『達』ということは・・・」 「勿論ギアッチョもいるわよ」 ビシッ!と心臓が凍った音が聞えた。ギーシュは「・・・あ・・・あう・・・」とまるで懲罰用キムチでも食らったかのように呻いている。 そんなギーシュを見てキュルケは更に溜息を重ねると、 「どの道ギアッチョはルイズの使い魔なんだから、いつでもあの子と一緒にいるでしょうよ ルイズが一人になる隙をうかがうよりは今特攻したほうがスッキリすると思うけど?」 生きていればね、と小さな声で付け加えてギーシュを見る。 「き、聞えてるぞキュルケ!やっぱりダメだ・・・ここ、こっそりルイズに手紙を渡して人気の無いところへ呼び出して・・・」 常軌を逸した怯え方である。殺されかけたという事に加えて、自分の魔法をことごとく破られ跳ね返されたという事実が彼の恐怖を加速させていた。 キュルケは呆れを通り越して哀れになってきたが、いい加減出発しないとシルフィードでもルイズ達を見失うかもしれない。 これを最後にするつもりでキュルケはギーシュに発破をかけた。 「あなた少しは男らしいところ見せなさいよ こんなところをあの使い魔が見たらまた『覚悟』が無いとか言われるんじゃあないの?」 「――!」 その言葉に、ギーシュは動きを止めた。彼は何かを考え込むようにわずか沈黙し、真剣な眼でキュルケを見る。 「・・・ねぇ君 『覚悟』って一体何なんだろう」 先ほどまでのヘタレ具合とは一転、彼の眼には苦悩の色が浮かんでいた。 「あの男――ギアッチョに言われたことがずっと耳から離れないんだ 『覚悟』って何なんだ?彼と僕と、一体何が違うんだ? ギアッチョと僕を隔てる、絶対的な何かがあるのは解る だけど一体それが何なのか、いくら考えても答えが出ない」 ギーシュの懊悩は、キュルケには解らない。あの男の真の凄み、そして恐ろしさは、対峙してみなければ理解は出来ない。ギーシュはそう知りつつも、誰かに疑問をぶつけずにはいられなかった。例えギアッチョと同等の能力を持っていたとしても、 自分は永遠に彼に勝つことは出来ない。そうさせる何かが、あの使い魔にはある。 自分にはそれがない。その事実がただ悔しかった。 「あの決闘で――自分がどれほど自惚れていたのかを思い知らされたよ」 ギーシュはうつむいて言葉を吐き出す。 「・・・そして どれほど愚かだったのかも」 なまじっか顔と成績がいいばっかりに、高く伸びていたギーシュの鼻をヘシ折れる生徒は存在しなかった。そのギーシュを完膚なきまでに叩きのめしたのは、タバサでもキュルケでも、マリコルヌでもモンモランシーでもなかった。 ゼロと蔑まれていた少女、その人間の、しかも平民の――加えて言うならば顔もよくはない――使い魔だったのである。 ギーシュのプライドは粉々にブチ割れた。そして同時に、自分がどれほど他人を見下していたかを理解した。 「こんな屈辱に――ルイズはずっと耐えてきたんだ ・・・僕は 僕はどうしようもなく馬鹿だった」 彼女に謝罪しなければならないと言うギーシュの眼は、紛れもなく本気だった。 タバサはキュルケ達の頼みを快諾した。他でもない唯一の親友キュルケの頼みだという事もあるが、あのギーシュがそりゃもうジャンピング土下座でもしそうな勢いで頼み込んで来たのである。 それも己の利益の為ではなく、純粋に少女への謝罪の為とくれば、いくら虚無の曜日とはいえタバサも力を貸すにやぶさかではなかった。 そういうわけで彼女達は今タバサの使い魔である風竜、シルフィードに乗ってルイズ達を追っている。竜の背中でタバサは中断していた読書を再開し、キュルケはしきりとシルフィードを褒め称え、ギーシュは勢いで飛び出してきたもののやっぱりギアッチョが怖いらしく、時折キュルケの口からギアッチョの名が出る度にビクビクと震えていた。 「ギーシュ あなたいい加減腹をくくったら?」 ちょっと男らしい事を言ったかと思えばこれである。キュルケはまたも呆れていた。 「そ、そんなこと言ったって怖いものはしょうがないじゃないか!自分の魔法で全身蜂の巣にされる恐怖が君に分かるかい!?」 ギーシュがまくし立てると、 「自業自得」 タバサが活字に眼を落としながら呟く。それを聞いたキュルケが思わず噴き出し、ギーシュはもういいよとばかりにがっくりと肩を落とした。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/562.html
一人の少女の挙動に、その場にいたすべての人間が注目していた。 その少女はルイズ。またの名を『ゼロのルイズ』。 この二つ名自体に相当の侮蔑の要素が入っていたが、口さがのないものはさらに別の名で呼んでいた。 『ヌ』で始まる4文字の名で・・・。 「気をつけなさい。爆発はいつもの規模とは限らないわ。もしかしたらこのあたりまで爆風が届くかもしれないわ」 赤い、火のような色の髪の毛をなびかせた少女、キュルケが級友たちに注意を促す。 その言葉に、ルイズを囲む人の輪が3歩ほど後退する。 「これから起こる出来事は・・・」 キュルケがしみじみと口をひらくが、その先は言葉にならなかった。 キュルケ(毎度のことだからずっと昔から知っている出来事・・・ そう・・・私は・・・ずっと知っていた・・・私はこいつの失敗魔法を入学したときから知っていた・・・このタバサも) タバサ(・・・・・・・・・・・・) キュルケ(予想していなかったことではない・・・入学したときからいつか別れることになる相手として・・・ 私たちクラスメイトは ルイズといつか別れることを知っていた・・・・・・) モンモン(関係がない・・・ヴァリエールの召喚失敗に・・・結果、退学を言い渡されることに・・・ 私の人生には関係がない・・・) ギーシュ(今・・・見えてるこの色は・・・ モンモランシーが「白」の下着を身に着けているということだ・・・キュルケは「黒」! モンモランシーは「白」 雨上がりの水溜りに はっきりと写って見えるぜ! おっきした下半身にさらに血が集まってくる 「前屈みのポーズ」で僕はいるッ!) クラスメイトたちの視線。 ある者はルイズとすごした一年間を懐かしみ、ある者は・・・ルイズには興味なさそうに本に視線を向け ある者は「かわいそうだけど、明日の朝には荷物をまとめて寮から追い出される運命なのね」ってかんじの視線を向けている。 そういった視線を感じ、ルイズの呼吸は自然と荒くなる。 ルイズ「し・・・始祖様ァ・・・私はあなた様の作り上げた系統魔法を練習してないわけじゃないですから~~ あなた様の作り上げた系統魔法が私にも使えると確信しているからこそ、使い魔召喚の儀式を行うんですゥゥゥ 香水のビンを拾ったら決闘が起こるってことと同じぐらい確信していますゥ・・・ そこのところわかってくださいねェェェ~~~」 「つべこべ言わんとさっさとやらんかァーーー!」 息を荒げながらうだうだと言うルイズの態度に、頭髪のさびしい教師が一喝する! ルイズ「神聖で美しく、そして、強力な使い魔様~~~ フェッ フェッ 私のことを馬鹿にするやつらをぶっ殺してやっておくんなさいましよ~~~~~」 ルイズは召喚の呪文を唱えると杖を一振りする! ドッグォーz_ン!! 案の定、ルイズが杖を振ると爆発が起きた。 その爆発は普段の爆発よりさらに大きく、十分な距離をとっていたつもりのクラスメイトたちが顔をしかめる。 そして、爆発の中心地ではもうもうと土煙が舞う。 キュルケをはじめ、ほぼすべてのクラスメイトたちが土煙が晴れるのを注視するッ! 案の定魔法は失敗して、煤にまみれたルイズが一人立っているのか・・・。いや案外変なものを呼び出すかもしれない。 まともな使い魔を召喚するという予想は圧倒的少数派で、必然的にオッズも高い! 頭髪のさびしい教師などは、頭皮に栄養を与える秘薬を買い込んでしまって今月はピンチなので、祈るように見ていた。 皆が土煙を注視する中、ただ一人! ギーシュ・ド・グラモンは別のものを見ていたッ! それはルイズの起こした爆風によってその位置を変えた水溜りッ! 位置が変われば、当然映し出すものも変わる! その水溜りには、いつも教室の隅で本を呼んでいる無口な少女のスカートが写っていた。 (タバサか・・・正直好みではないが、薔薇はすべての女性のスカートの中をのぞくもの・・・。 それにあの無口な少女がどんな下着を身に着けているのか、少し興味があるぞ!) その素敵な好奇心がギーシュに奇跡を見せたッ! そして、ギーシュが奇跡を見たのと同時に、土煙も晴れていた。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ 土煙が晴れ、そこにいたものは・・・ルイズ! 多くの生徒たちが予想したとおりそこにいたのはルイズただ一人! キュルケ「え!?」 タバサ「!?」 モンモン「え!?」 ギーシュ「!!!!!!」 予想通りであるはずのその光景に、クラスメイトたちは驚きの声を上げ、もしくは声にならない声を上げた! ギーシュただ一人だけは別の理由で絶句していたが・・・ 「召喚されたのは・・・私だったァーーー 今召喚の呪文を唱えたのにィ~~~」 そこにいた、いや、そこにあったのはルイズ! いや、ルイズだったもの!! 6つに切り分けられたルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールッ!! 「な・・・なにィー ど・・・どうしてルイズがバラバラにッ! 私は一瞬たりとも土煙から目を離さなかったッ!」 キュルケは自分の目に写る光景が信じられないという風に声を荒げる! そしてギーシュも自分の目が信じられなかったッ! 「ババくさい肌色の下着だとか! 大胆な紐だとかじゃあだんじてねー どう見てもはいてないッ!」 肌の色と同化してるのでも、布の面積が小さいのでもないッ! 布の面積がゼロッ! ゼロのタバサッ! 自分の見たものが信じられず、思わずタバサの顔を凝視するギーシュ。 「はいてないッ!?」 マリコルヌはそんなギーシュの言葉を聞き逃さなかった。そしてそれは他の男子生徒にも広がる。 ドドドドドドドドドドドドドド 男子生徒一同、プラスコッパゲが、ギーシュの「はいてない」という言葉と、ギーシュの視線が向かう先を理解するッ! ドドドドドドドドドドドドドド タバサ「野郎・・・面白くなってきた・・・」 ルイズ・・・・・・死亡 キュルケ・・・・・・自分の部屋に戻って二時間眠った。目をさましてからしばらくしてルイズが死んだ事を思い出し・・・泣いた 男子生徒一同・・・・・・タバサのエアハンマー・オラオラをくらい再起不能 タバサ・・・・・・見られるかもしれないスリルがやめられない DIO様・・・・・・誰も相手してくれないから城に向かった トリステイン・・・・・・1年後、ハルケギニア中から死都と呼ばれることになる ゼロのタバサ 完!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/192.html
法皇は使い魔~第一章~ 今日のトリステイン魔法学院はいつもより騒がしかった。 そう、今日はメイジの一生を決める儀式の日であるからだ。 具体的には使い魔を呼ぶ儀式であり、使い魔とはメイジにとっての一生のパートナーである。 ピンクの髪をした少女、通称「ゼロのルイズ」も例外で無かった。 この少女ルイズは焦っていた。 自分とやたら因縁のあるキュルケや、その友達のタバサが立派な使い魔を召喚しているからである。 人一倍負けず嫌いなルイズはなんとしても彼女等をこえる使い魔を召喚したかった いよいよルイズの番がやってくる。 「どうせ爆発するだけだから逃げろ~」 「失敗するだけだから無駄だぞ~」 「これは魔力の無駄だな」 外野がうるさい事を言ってくる。 きっと見返してやる、ルイズはそう心に誓い叫んだ 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 召喚の衝撃による煙がはれ、現れたものは・・・・・・・ 変な髪形をした人間の姿だっただった 「あははは、平民を呼ぶなんて聞いたこと無いぜ」 「さすがはゼロ、真似できないなあ」 「これは失敗以上に笑えるぜ」 実力をもってみんなをアッと言わせるつもりだったが余計に馬鹿にされてしまった。 しかし、召喚してしまったものは仕方がない。ルイズは名前を聞いた。 「あなた・・・名前はなんていうの」 「我が名は花京院典明」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2450.html
大地を揺るがす轟音の後、訪れたのは場違いともいえる静寂だった。 ほんの数分前まで空を占めていたレコン・キスタの艦隊は一隻の例外なくタルブの草原に叩き付けられ、友軍の地上部隊の大半を道連れにした。 昨日、美しく広大な草原であったそこは、中央に巨大な湖を生み出していた。 しかしその湖は風光明媚で知られるラグドリアンの湖とは比べることが出来ない。 かつて艦船であった木材の残骸と、かつて人間であった肉塊が湖面に浮かび、霧の様な土煙が立ち込める湖上。それを照らすのは、月に蝕まれた日の光。 地獄の一風景を現世に呼び出してしまったかのような凄惨な光景の端の中、トリステイン軍は時でも止められたかのように動くことが出来なかった。 しかし、この停止した時の中で動くことの出来る人間は二人いた。 この光景を作り出したウェールズ、そしてアンリエッタである。 「どうなさいました。枢機卿」 王女の可憐な唇から漏れたのは、戦の最中に呆ける行為を咎める響き。 アンリエッタの声で逸早く我に返ったマザリーニは、喉も裂けよとばかりの大音声を張り上げた。 「諸君! 見よ! 敵の艦隊は滅んだ! トリステイン国王女アンリエッタ殿下とアルビオン皇太子ウェールズ殿下の伝説の魔術、オクタゴンスペルによって!」 「オクタゴンスペル……!」 マザリーニの叫びに、将兵達の時が再び動き出していく。 「さよう! 王家の血に連なるメイジにのみ許された伝説の詠唱! 各々方、これで始祖の御意思、そして祝福がどちらにあるか示された! 彼奴らは今、始祖の鉄槌を下されたのですぞ!」 今、何が起こったのかを目撃したトリステイン軍は枢機卿の言葉をすぐさま受け入れる。腹の底から湧き上がる原始的な衝動は、水面に広がる波紋のように苛烈な砲撃を耐え抜いた軍勢に伝播していった。 「うおおおおおおおおぉーッ! トリステイン万歳! アンリエッタ王女万歳! ウェールズ皇太子万歳!」 鬨の声が上がる中、アンリエッタは自分を離すまいと回されている腕の感触に幸せそうな微笑を浮かべていた。 「ウェールズ様……ああ、まるで夢のよう。もし夢だったとしたら……二度と覚めなくても構わない。そう思います……」 ウェールズはその言葉に、ほんの少し困ったように微笑んだ。 「これが夢であってたまるものか。僕達は手に入れたんだ……これは現実なんだよ、僕のアンリエッタ」 恋人同士によく見られる、世界には二人きりと言わんばかりの甘い空気は、マザリーニの控えめな……しかしよく通る咳払いで掻き消えた。 「オッホン。王女殿下と皇太子殿下のお邪魔をするのは出来うる限り避けたい所ではございますが……まだもう一仕事していただかねば困ります」 アンリエッタは勿体つけた物言いのマザリーニに、悪戯っぽく笑った。 「うふふ、ごめんなさい枢機卿。王城に帰ったら、ゲルマニアに使いを出さねばなりませんものね」 「その通りですな。わたくしにドレスの裾を投げ付けたように、あの成り上がりに婚約破棄を通達してやらねばなりますまい」 変われば変わるものだ、という感慨がマザリーニの胸中を占める。 あの会議室での演説で、王家に飾られる花でしかなかった少女は王女になった。 そして今、皇太子の腕の中で王女は最上級のスクウェアメイジに成長を遂げた。 なんと出来過ぎた物語だろう、と思える。物語の筋としては使い古された陳腐な筋だ。 王女がこれ以上ない危機に立たされた時、王子様が突然現れて共に手を携えて危機を打ち破る――しかし、それが現実に起こったとなれば、そしてその物語が生まれた瞬間に立ち会えるとなれば。 せいぜいが慌てふためくセリフと演技しか許されない端役者だとしても、体の中から浮き上がるような歓喜は否定することが出来ない。 マザリーニは、主役の二人を眩しげに見上げ、二人の目を見つめた。 「さあ、これより勝ちを拾いに行きましょう。皇太子殿下、王女殿下――いや」 帰ったら、この題目を脚本にした舞台を上映させよう。それを国威発揚に用いれば、しばらくはこの劇の話題で持ち切りになるだろう。 ならばせめて、決め手になるセリフを告げる役得くらいはあっていい。 「アルビオン国王、ウェールズ陛下。トリステイン国女王、アンリエッタ陛下」 恭しく頭を垂れた枢機卿に、二人の王は強く頷く。 アンリエッタは水晶の杖を掲げ、ウェールズは愛用の杖を掲げた。 「全軍突撃ッ! 王軍ッ! 我らに続けッ!」 地を揺らすような轟きを上げ、トリステイン軍は熱狂に浮かされ駆け出した。 * ルイズは、熱狂とは無縁だった。 友軍の戦艦を竜巻ごと落とされたレコン・キスタ軍はほぼ壊滅状態であったが、撤退さえ許されることなくトリステイン軍の突撃を受けている。 しかしルイズは突撃に加わる事無く、ラ・ロシェールに一人立ち尽くしていた。 先の艦砲射撃でのトリステイン軍の被害は決して少なくない。大勢の負傷兵と共に友軍を見送る形となったルイズは、遠い空を飛んでいる飛行機を呆然と見上げていた。 王女の助けになりたい、という意思は確かにあった。 しかし、自分の出る幕などなかった。 竜騎士隊と命を賭けて戦ったのは、異世界の飛行機械を駆る奇妙な老人。 危機に瀕した王女様を助けたのは、魔法の唱えられない友人ではなく、国を追われた王子様。 「……何よ。何よ」 自分は何も出来なかった。自分がした事と言えば、舞台に上がることも出来ずただ指をくわえて物語を眺めているだけ。 魔法を使うことも出来ない。戦いに赴くことも出来ない。 ぽた、ぽた、と白く形の良い頬を伝って涙が落ち続ける。 涙を止めようと両手で顔を覆うが、涙は次から次へと手の隙間から落ちていく。 「何がメイジよ……! 何がヴァリエールの末娘よ……! 私、何も出来ないじゃない! 何も出来ない……ただの、ただの……!」 遠くから聞こえる戦の戦慄きすら、ルイズに届くことはない。 今まで自分を支えていた貴族の矜持も、今遂に枯れ果てた。 くたり、と身体から力が抜け、馬の背へ崩れ落ちた。 「う、う、うわぁぁぁっ……うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!」 視界が歪む。嗚咽を抑える事など出来ず、溢れる心の迸りを吐き出すように叫んだ。 * ルイズの説得を聞き入れて戦闘空域から離脱したジョセフは、ルイズの言葉が嘘でなかったことをこれ以上ないほど目撃した。 ラ・ロシェールから放たれた巨大な竜巻が、空に浮かんでいた艦隊を飲み込んで地上へ落ちて行く様を文字通り『高みの見物』してしまい、流石のジョセフと言えども度肝を抜かれていたのだった。 「……うーわー、ありゃオクタゴンスペルだぜ。あの王子と王女ってトライアングルだって聞いてたが、化けたなありゃあ。俺っちもさすがにおでれーたぜ」 カチカチと金具を打ち鳴らしながら叩く軽口でさえ、ジョセフの右耳から入って左耳から通り抜けていた。 「……こいつぁえれーモン見ちまったわい。昔戦ったワムウの神砂嵐もすごかったが、こんな芸当が人間に出来ちまうとはな。魔法恐るべし」 雲より高い空の中、凍えるような寒さの中でも額に浮かんでいた汗を、手の甲で拭った。 「さて、墜落しちまう前にどっかに着陸しちまわんとな。いくらなんでも人生で五回も墜落するのはナシにしたいわい」 うるさく鳴っていた金具の音が止み、ぼそりとデルフリンガーが囁いた。 「二度と相棒とは一緒に乗らねえ」 「うるさいぞ」 くくく、と二人揃って笑い合えば、シュル、と小さな音を立てて紫の茨が左腕から伸びた。 「ん? どうした相棒。何かあったのかい?」 当のジョセフは、片眉を上げてハーミットパープルを見た。 「……いや、わしゃ出した覚えなんかないぞ」 「あん?」 「なんでか知らんが出てきた。……む」 手袋の中から漏れる光。何度か起こってきた経験に従って手袋を脱ぎ落とすと、使い魔のルーンが眩く輝いていた。 「どうしたことじゃ、こいつぁ。デルフよ、お前なんか心当たりないか?」 「知らねえよんなこたぁ。俺っちも長生きしてきたが、スタンド使いが使い魔になったこたぁねーからよ」 怪訝そうな呟きと視線を受けていたハーミットパープルは、ルーンが刻まれた義手の甲へと滑り、まるで穴へ潜る蛇のようにルーンの中へ潜り込んで行った。 「なんだ!? こいつぁ……! 引っ込め! ハーミットパープルッ!!」 今まで起こったことのない状況を前に、ハーミットパープルを引っ込めようとするが、茨はジョセフの意思に従わない。消えるどころか、茨は次々に増える一方だった。 「なんじゃ!? 一体何がどうなっとる!?」 * 崩れかけた街に、少女の慟哭が響く。 どれだけ泣いてもルイズの中から濁った感情が引く事はなかった。 泣いても、泣いても。 どれだけ泣いても、自分が無力な存在であることは変わらないのだ。 (始祖ブリミル、あんまりです……! どうして、どうして私だけ……!) 人目を憚らず泣く。こうして泣いていれば、誰かが見つけて抱きしめてくれた。 しかし今は誰もいない。 カトレア姉様も、ワルドも、ジョセフも。 自分の側には誰もいない。誰も、いない。 だからこそ、叫んだ。小さい頃からずっと、心の中で蟠っていた叫びを。 「私に……力があれば……! 何も出来ないのは、もう嫌……! 私に力を! 守られているだけなんて、見ているだけなんて、もう嫌! 私に、私にっ……『力』を……!!」 固く目を閉じて、喉も限りに叫び―― ――不意に、抱きしめられた。 誰かが自分を抱きしめている。 ルイズはこの感触を知っている。いや、この暖かさとこの力強さを知っている。 「…………ジョセ、フ…………?」 ルイズを包んでいたのは、茨だった。 見間違えることなどない、紫の茨。 ハーミットパープルが、華奢な体に巻き付いていた。 泣く子をあやすように優しく、それでいて力強く逞しい。 空を見上げれば、飛行機は空を飛んでいる。ジョセフはここにいない。 左手から何かが迸ってくる感覚がある。左手を見てみれば、ハーミットパープルは自分の左手の甲から出ていた。そこから現れたハーミットパープルが、自分を包み込んでいたのだった。 「これも、スタンド能力なの……?」 訝るように呟かれた言葉に応えるかのように、ハーミットパープルはしゅるしゅると動いていく。 茨の一本がポケットの中に入り込み、ポケットに入っていた『水』のルビーを取り出してくる。そのまま茨がルイズの手を取り、指にはめさせた。 「ちょ、ちょっと。一体何を……」 ルイズの疑問も意に介さず、続いて懐から始祖の祈祷書を引っ張り出した。 結局詔は完成せず、戦場へ向かうアンリエッタを追うのに慌てていれば、ラ・ロシェールへ持ってきてしまったのだ。 ハーミットパープルがルイズの眼前へ祈祷書をかざした、その時。 突然、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光り出したのに、びくりと肩を震わせた。 「……何よ、これは……」 突如放たれた光に目を眇めていれば、白紙だったはずの紙面に文字が書かれているのが見えた。 それは果たして古代のルーン文字であったが、学年でも指折りの勉強家であるルイズは難なくその文字を読める。ページにびっしり書かれた文字列を目で追っていく。 『これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す』 視線を素早く走らせ、内容を読み解いていく。ルイズの視線が最後の行を読み終わった瞬間に、ハーミットパープルがページをめくってくれた。 『神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化をせしめる呪文なり。四にあらざれば零。 零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん』 読み進めていく内に、ルイズの鼓動は高ぶっていく。 「虚無の系統……伝説じゃないの。伝説の系統じゃないの!」 祈祷書を読み耽るルイズは、頬を濡らした涙を拭くことも忘れていた。ハーミットパープルがポケットから取り出したハンカチで拭ってくれているのも気付かないまま、胸の中で大きくなっていく鼓動ばかりを強く感じていた。 『これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。 また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。 選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』 』 その後に古代語の呪文が続く。 読み終わったルイズは呆然とする。虚無が強力なら厳重にするのも理解できるが、それにしたってここまで厳重にしたら気付かないで一生を終えたりする可能性高すぎるでしょう、とか当然言いたかった。 が、それよりも今、余りにも多くの事が一度に起こり過ぎて混乱しかけていたルイズの思考が、段々落ち着きを取り戻してきていた。 祈祷書から、自分を包み込んでいるハーミットパープルに視線を移すとそっと撫でてみる。茨に棘は生えているが、先端に触れてみても痛みはない。 『メイジと使い魔は一心同体よ』 ジョセフを召喚した夜、滔々と語っていた言葉を思い出す。 『ハーミットパープルの能力は念写に念視!』 武器屋を探す時に、ジョセフが見せてくれたスタンド。 「……もしかして。私が……力を欲しいと、心から願ったから? ハーミットパープルが、私の中に眠っている虚無の力を探し出してくれたの……?」 もしハーミットパープルがなかったら、果たして自分は祈祷書を読めていただろうか。 『水』のルビーを指に嵌めた後で、祈祷書を開いて読もうとする機会など考えにくい。 だとすれば、なんて迂遠なことだろうと思う。 自分の中に眠る力を見つける為の大きな扉を開くために、異世界のスタンド使いを――それも探索能力に長けた――連れてくるだなんて。 しかしそうでなければ、一生気付かないままだったかもしれない。 一生、ゼロのルイズとして蔑まれる人生を送っていたかもしれない。 しかし今、ルイズは自分の系統に気が付いた。 ジョセフの力を借りられたのは、彼が自分と一心同体の存在だったから。主人の切なる願いを感じ取ったハーミットパープルが、主人の望む物を探し出したのだ。 「…………ジョセフ…………!」 今、ここにいない使い魔を掻き抱くように、自分を包む茨を抱いた。 再びルイズの目から涙が零れる。 しかし、先程の涙とは違う。 暖かく、暖かく、暖かく……――嬉しくて流れた涙だった。 ぐ、と袖で涙を拭うと、まだ暗い輪を作る太陽を見上げ、続いて飛行機に目をやった。飛行機は日蝕の輪に向かってはいない。むしろゆっくりと高度を落としていっているのが見えた。 ルイズは、祈祷書に目をやる。静かに、しかし大きく息を飲んでから、右手にある杖を握り直した。 (ダメよ)(やらなくちゃ) 二人のルイズがいる。 呪文を唱え始める。 (何をする気なの)(そんなの決まってるわ) 沸き立つような心の波、冷ややかに祈祷書の呪文を追う視線。 まるで何度も聞いた子守唄のような懐かしい旋律を紡いでいく。 (そんなことをしてはダメよ。ジョセフを帰すだなんて)(帰さなきゃいけないのよ) 初歩の初歩の初歩の虚無、エクスプロージョン。 聞いた事もないのに、初めて使う魔法だというのに、ずっと前から知っていた。 (馬鹿げてるわ! そんなことの為に、伝説の力を使うだなんて!)(伝説の力だからこそ使うのよ。エクスプロージョンなら……虚無の力なら、飛行機をあの日蝕の輪へ持ち上げることが出来る!) リズムが体の中に沸き起こり、駆け巡る。 今、何をしようとしているのか、ルイズは十分すぎるほど理解していた。 自分を優しく支えてくれてきた使い魔を、自らの魔法で、自らの手の届かない世界へ帰そうとしているのだ。 (やめましょう! 今なら間に合うわ! 簡単よ、今すぐ詠唱をやめて、日蝕が終わるのを待つのよ! 誰にも判らないわ、私が何もしなかったからって誰も責めないわ! そうよ、ジョセフだって、きっと仕方ないって――……) (私が許さないわ!!) 囁くのは、ルイズ。一喝したのも、ルイズ。 二人とも紛れもないルイズであり、ルイズの本心。 二人に共通しているのは、ジョセフを大切に思っているということ。 しかし、決定的な違いがある。 一人は、ジョセフを慕い縋ろうとする少女のルイズ。 もう一人は、ジョセフを誇りに思う貴族のルイズ。 帰したくない、帰してあげたい。それは同時に存在する、ルイズの本心。 どちらにも転ぶ。どちらかを選ぶ。そしてルイズは選んだ。 詠唱は、止まらない。 (駄目、駄目よ! そんなことしたら、私は一生使い魔のいないメイジになるわ! ジョセフが死ぬまで新しい使い魔を呼べないのよ! 使い魔が欲しくてジョセフが死ぬのを願ったりするなんて、そんなことはいやよ! やめて! やめましょう!) (そんなことは願わないわ、決して! だって、だって、私は――……) 長い詠唱の後、呪文が完成した。 その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を完全に理解した。 これは、大いなる力だ。 先程の艦隊を、ただ一人で打ち破れる。いや、それだけではない。自分の視界に映る全てを巻き込み、しかも自分の破壊したいものだけを破壊できる。 今なら、まだ引き返せる。この杖を振り上げなければ、まだ引き返せる。 これだけの力を使えるのは、最初の一回だけ。今まで溜め込んできた精神力を使ってしまえば、また溜め込むのに時間が掛かる――使ってもいないのに、ルイズには当たり前のように理解できていた。それは自分の系統だからだ。 そう、今までゼロだと蔑まれてきた自分が伝説の担い手だったのだ。 この力があれば、敬愛するアンリエッタ様の力になれる。 両親に、姉達に、友人達に、教師に、胸を張れる。 私は、立派なメイジなのです。 ちょっと奇妙な使い魔がいるけれど、私は一人前のメイジなのです…… 杖を握る手に、力を込めた。一瞬、自分を包んだままの茨に視線をやり……そして、何かを吹っ切るように空を見上げる。 「私は……私はぁッ!!!」 涙が落ちるのにも気付かず、天高く杖を振り上げた。 「ジョセフ・ジョースターの主ッ!! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのよぉーーーーーーーッッッ!!!」 * ハーミットパープルが自分の制御を外れたのに警戒はしつつも、今最優先すべきなのは無事に不時着することである。 今にもオシャカになってしまいそうなゼロ戦を宥めすかしつつ着陸場所を探していたジョセフは、突如眼下で膨らんだ光の球に気付く。 まるで小さな太陽のように鮮やかで激しい光を放つそれに、思わず腕で目を覆った。 「なんだぁーーーーッこいつはッ!!」 回避運動を取ろうにも、下から膨れ上がる光の球の速度は、どう逃げようともゼロ戦を捕らえる。ガンダールヴのルーンが突き付ける非情な現実が、ジョセフの頭に否応なしに浮かぶのだった。 「落ち着けよ相棒。ありゃあ、虚無の魔法だ」 「なんだと!? 虚無!? それがなんで今頃……」 「そりゃあ、虚無の担い手が使ったんだろ。ふつーのメイジにゃ使えねぇ」 「お前、そんな暢気な……!」 「俺の敬愛する相棒に含蓄ある素晴らしい言葉を送るぜ。ダメな時ゃ何やってもダメ」 「ただ諦めてるだけじゃないかそいつァー!!」 狭いコクピットの中で何を言い合おうと、結果が変わる事はない。 迫り来る光の球がゼロ戦の腹に当たる瞬間、覚悟を決めて目を固くつぶる。 (ああ……ここでオシマイかッ……すまん、スージー、ホリィ、承太郎、ルイズ……ッ!) しかし、終わりの時は訪れない。 不意に感じた奇妙な感覚に恐る恐る目を開けた。 結論から言えば、光の球はゼロ戦を飲み込まなかった。 光の球は、ゼロ戦を飲み込むのではなく―― 「こ、こいつはッ! ゼロ戦を『押し上げている』ッ!?」 風防ガラスの外に見えたのは、『垂直に落ちて行く雲』。否、そう見えるのは自分達が垂直に上昇しているから。 どこへ向かうのか。 思わず上を見上げたジョセフの目には、今にも途切れそうになっている日蝕の輪が見える。 その瞬間、ジョセフは全てを理解した。 操縦桿から手を離し、側壁に凭れ掛かる。 「そうか……ルイズ……。お前、魔法使えるようになったんじゃなぁ……」 満足げに微笑むと、目を閉じて生意気な孫娘の顔を思い返した。 「なあ、デルフリンガーよ」 「なんだい相棒」 「いきなり召喚されて大変な目にもあったが……だが、楽しかった。とても楽しかったよ」 かちり、と一度金具を鳴らし、剣はしみじみと呟いた。 「ああ。楽しかったな……本当に心からそう思うぜ」 日蝕の輪は、どんどん近付いてくる。 「相棒の世界ってのは、俺っちが活躍できるような世界かい?」 「んーむ……DIOも倒したところじゃからなあ。お前の出番はないんじゃないか?」 イヒヒと笑うジョセフに、デルフリンガーは嫌そうな声を上げた。 「また武器屋の店先で安売りされるのだきゃカンベンしてくれよ、相棒」 そしてまた、二人で笑い合う。 光の球は輝きを増していく。 まるで月に隠れた太陽の代わりになろうとするかのような、黄金の輝きを。 その時、ジョセフは確かに見た。 日蝕の輪を潜った瞬間を。 * 不意に現れた光の球を、タルブにいた者達は見上げていた。 不意に現れた光の球は、特に目立った何かを起こすわけでもなく、現れた時と同じように不意に消えた。 その光の球が如何なるものだったのか理解できる人間は、一人だけの当事者を除いては誰一人存在しなかった。 そのたった一人の当事者も、今までの人生で蓄積してきた精神力を全て使い果たし、馬の背の上で気を失っていたのだから―― 【ジョセフ・ジョースター (スタンド名・ハーミットパープル) 地球へと帰還】 To Be Continued → 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/72.html
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ トリステイン魔法学校 その2年生において最も重要な事である使い魔召喚の儀式ッ! それがこの快晴ともいえる天候の中行われている。 「ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」 「はい!」 そしてそんな中周囲に ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ と音が聞こえんばかりに気合の入りまくった少女が教師に答え前に踏み出す。 「お前どっちに賭ける?」「爆発する方に」「まぁゼロのルイズだしな」「これ賭けになるのか?」 何時もなら大きめに叩かれる陰口であったが今回ばかりはその気合の入りっぷりに押され小声で話される程度となっている。 『ゼロのルイズ』それが今現在彼女に与えられている不名誉とも言える二つ名である。 最も集中力がノリにノってる彼女の耳には思いっきり聞こえているわけであるが・・・。 だが、それに対する怒りを心の中に押し止め召喚呪文の詠唱を始める。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ・・・我が導きに、答えなさい!!」 (成功する!) そう思った。手ごたえも確かにあった。呪文の詠唱にも完璧に集中できていた。 だが次の瞬間見えたものは「閃光」僅かに遅れて「爆音」が周囲に鳴り響く。 ドッギャアアーーz___ン!! その場に起こった物は「爆発」! つまるところ失敗というやつである。 土煙が立ち込め周囲の視界がほぼゼロになる。 聞こえるのは煙に撒かれた生徒達の咳と爆音の余韻のみ。 「またハデにやってくれたなッ!」「使い魔召喚の儀式にすら失敗するとはさすがゼロだよッ!」 などと生徒達から彼女を非難する声があげられるがハッキリ言ってその当人には全く聞こえてはいない。 呆然自失で前方を見据え (なぜ・・・どうして・・・・ どうして『爆発』だけなのよォオオオ~~~ッ!) と心の中で叫ぶ。 泣きたい、泣き叫べるものなら泣き叫びたい。 だが彼女のプライドが辛うじてその一線を越えさせないでいた。 といってもスデに半泣き状態に違いものがあったが・・・ だが、煙が薄らぐにつれ生徒達のざわめきが徐々に違うものになってきている。 「おい・・・アレ」「あそこに何か居るぞッ!」 その声を聞きルイズに希望が差し込む。 そして煙が晴れ爆発があった先を見ると―――男が倒れていた。 「ハ・・・ハハハハハハ」「はっはっはっやってくれるぜまったく!」 「平民!平民を召喚するなんて俺たちにはとてもできないぜェーーーーーッ!」 「さすが『ゼロ』俺たちにできないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるぅ!」 顔を真っ赤にしながら倒れている男にルイズが近付く。 だが男は動かない。動こうとしない。 「おいおい、まさか平民だけじゃ飽き足らず死体を召喚したんじゃあないだろうなァ」 周りから野次とも言える言葉が届く。 だが彼女はそれを無視し男が生きているかどうかを確認する。 (息はしてる。気絶してるだけ・・・・生きてはいるみたいね。) 最も、この場合気絶してくれている方が彼女にはそれがよかった。 何せ人生におけるビックイベントとも言えるファーストキスをしようというのである。 (感謝しなさいよね・・。貴族にこんな事されるなんて・・。普通は一生ないんだから!!) 心の中でそう何度も繰り返し使い魔の儀式を行う。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 だが、気付いていない―――誰も気付いていない。男がほんの少し動いた事に。 男が倒れたままのなっているため男の上に乗るような形で男の唇に自分のそれを重ねた。 闇に浸かっていた意識に光が差す、時間が経つにつれその光も広がっていく (オレは・・・一体どうなった・・・?) (少しだが声が聞こえる・・・オレはまだ生きているのか・・・?) 唇のあたりに少し何か感触があったような気がしたがあまりよく分からない。 体を動かそうとするが動けない、頭は起きているが肉体が起きていない。 だが次の瞬間起こった事に男の肉体も一気に覚醒するッ! 「うごォっ!」 左手に焼き鏝を押された・・・それ以上のような熱が集まるッ! 頭と肉体が瞬時に覚醒し男が上半身を起こし左手を押さえる。 「・・・・終わりました」 多少顔を赤らめながら教師にそう伝える。 「全員終わりましたね。では皆さん学院内に戻ってください。」 コルベールは生徒たちを建物の中へと移動させようとした時、今まで倒れたいた男が跳ね起きたッ! (ぐぅ・・・何だこの痛みはッ!?) 男が左手を見る、そしてその手を見るとルーンが手の甲に浮かび上がっていた。 (まさかこれは・・・スタンド攻撃かッ!?) 男がそう考えるよりも先に体が反応し、自分の分身というべき物の名を叫びそれを発現させる。 「・・・・・ザ・グレイトフル・デッドッ!!」 ルイズや他の者には見えない―――だが男、プロシュートだけに見える煙が周囲を包んでいった。 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2462.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 アルヴィーズの食堂を飛び出した康一だったが、しばらく歩いたところで座り込んでしまう。 「あー、お腹減ったなぁ・・・」 お腹がグルグルと鳴る。さっきまではこの異世界に気を取られて意識しなかったが、お腹が減ってしかたがない。 「そういえば・・・」康一は思い出す。 昨日は駅についてから昼飯を食べようと思っていたところを捕まったのだ。 つまり、これで丸一日食べてないってことになるんじゃないのかァー!? 「衣食住は保障されるんじゃなかったのかァ~?約束が違うよ~。」 さっき豪勢な食事を見たせいで余計につらくなってきた。 康一はお腹をおさえて溜息をついた。 「あら、コーイチさん。どうかされたんですか?」 え?と顔を上げた。黒髪のメイドさん。朝に会ったシエスタだ。 「ああ、シエスタか・・・。いや、大したことないんだけどさ・・・ルイズにご飯を抜かれちゃって・・・」 お腹がグルグルキュキュキュ~!と鳴いて、康一は顔を赤らめた。 「まぁ、それは大変でしたね!こちらにいらしてください。まかない食でよければお出しできますよ。」 シエスタは康一の手を取った。 「ええっ!いいのぉ~!?」 「もちろんです。ささ、こちらにいらしてください。」とシエスタは康一の手を引いてくれる。 シエスタの笑顔が天使に見えて、康一はちょっとだけ涙ぐんでしまった。 「ゥンまああ~いっ!」 康一はシチューをガツガツとすくった。 「よっぽどお腹が空いてたんですね。」 シエスタはクスクスと笑った。 康一がつれてこられたのは食堂の裏手にある厨房の一角だった。 大きな鍋やオーブンなどが並んでいる。あちらこちらに色々な食材が貯めてあるのが見える。 そこでシエスタは、康一のためにパンとシチューを持ってきてくれたのだ。 この世界に来てから初めて優しくされた気がする! お腹を満たす幸福感ともあいまって、康一はほろほろと涙を流した。 「こんなに美味しい食事は初めてだよぉ~!」 空腹は最高のスパイスというのは本当だ!と康一は思った。 「ふふ、大げさですね、コーイチさんは・・・」 シエスタは流れる涙をハンカチでそっと拭いてくれた。 たぶん、童顔で背の低い康一を年下の男の子だと思っているんだろう。 康一はたぶん同い年くらいだろうと思ってはいたが、優しさが心地よいのであえて何も言わなかった。 「ぼく、召還されてからこんなに優しくされたの、初めてで・・・本当にありがとうございます~!」 「いいんですよ。平民同士助け合わないと、ですしね。」 シエスタは笑った。 「それにしてもひでぇ話だ!」 40過ぎで太めの男がやってきて怒ったように言った。 彼はマルトーさん。この魔法学院で料理長をしているらしい。 康一を連れたシエスタが事情を説明すると、同情して食事を出してくれたのだ。 「無理矢理使い魔にしておいて、メシも与えないなんざ、平民をなんだと思ってやがる!」 康一の肩に手を載せる。 「貴族はいつも勝手なもんさ。平民がいなきゃなんにも出来ない癖して、いっちょ前にいばりやがって。おまえも災難だったなぁ。こんなもんでよけりゃいつでもご馳走するからいつでもこいよ?」 「はい!ありがとうございます!」 康一は初めて味方が出来た気がして嬉しくなった。 でも・・・とシエスタが康一を気づかうようにいった。 「あまりミス・ヴァリエールを嫌わないであげてくださいね?」 「どうして?」 康一は尋ねた。 「ぼく、あいつに召還されてから今までろくな目にあってないんだけど・・・」 「ミス・ヴァリエールは本当は優しい方なんです・・・・」シエスタは目を伏せた。 話によると、シエスタが以前貴族にいびられているときに、ルイズが助けてくれたことがあるらしい。 「想像つかないなぁ~」 康一は首をひねった。 「多分ミス・ヴァリエールは焦っておられるんです。だから周りが見えなくなってるんじゃないでしょうか。」 「焦る?どうして?」 「えーっと、それはですね・・・」シエスタが言いにくそうに口ごもっていると、 「コーイチ!コーイチー!どこにいるのー!出てきなさーい!」 とルイズの呼ぶ声がする。 「噂をすれば、ってやつだね。」 康一は溜息をついた。でも、美味しい食事と優しさをもらった。しばらくがんばれそうだ。 「ありがとうマルトーさん。シエスタ。ぼく、行くよ。」 「そうか、がんばれよ。」 「またいつでもいらしてくださいね!」 二人に見送られ、康一はルイズの声がするほうへ走っていった。 康一が走ってくるのを見つけると、ルイズは怒ったように言った。 「どこいってたのよ。」 「ぶらぶらしてただけだよ・・・。」 厨房のことは言わなかった。何か言われたらたまったものではない。 さっき喧嘩したばかりで、少し気まずい康一に、ルイズが「これ。」と手を突き出す。手には一個のパンが乗っていた。 「・・・何これ。」と康一が聞くと、ルイズは少し顔を赤くした。 「お腹が減って倒れられたら困るでしょ!ほら、早く食べなさいよ!」 ルイズはパンを押し付けると、スタスタと歩き去っていく。 康一は押し付けられたパンを見た。多分食卓から康一のために取ってきてくれたのだろう。 ミス・ヴァリエールは本当は優しい方なんです。というシエスタの言葉を思い出す。 「ほら、早く来なさいよ!授業に遅れちゃうでしょ!」 いつまでもついてこない使い魔をルイズが呼ぶ。 「も~・・・しょーがないなぁ~」 康一はパンをくわえると、小さなご主人様(仮)を追いかけることにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔